『シンパティツキー作戦』



外国人が一人、外国で暮らしていくには、工夫が要ります。
柔軟になり常識を捨て去らなくてはならないのは基本中の基本ですが、更に言うなれば私は「この人、なんだか親身になっちゃう」と相手に感じさせる作戦が有効だと思います。これを行えば、一気に味方も増え、用事も的確に済ませることができます。逆に言えばこの一手間を怠ってはなりません。英語が万能だと信じてる人はかなりの盲目だと言えると個人的には思います。英語は決して万能ではないのです。万能なのは、人間においては柔軟性と努力のみです。

例えばチェコ人は、英語が苦手というか、苦手意識が強いです。実際全く英語がわからない人もたくさんいます。最近では英語分かる人も若い層を中心にわりと増えてきてはいますが、やっぱりまったく英語がわからない人も沢山います。街で買い物ひとつするにも、ご飯食べるにも、えっこんなの通じないの?ということがまだまだ多々あります。
4年前初めてこの国に来たある日、レストランでご飯食べていたら隣の席の夫婦の旦那さんがウェイターに「ナイフ下さい」と言ったが通じず、奥さんが知ってたらしくてチェコ語で「ヌーシュ」と言ったら速攻でナイフが出て来た、とかいうのを最初に目の当たりにして、あぁやっぱりチェコ語頑張らないと…と思った記憶があります。
あとはアジア人もわりといるんですが(わりとといっても少ないんですけど…)、外国から来たなら英語がわかるだろうと思って話しかけたら、そのあたりの皆さんは労働のために来ているため、英語をすっとばして商売に必要なチェコ語しかできないので通じない、なんてことはこの国ではほぼ常識です。従ってアジア人同士だとけっこう英語ではなくチェコ語で会話することが多いです。向こうが同士だと思って中国語で話しかけてきて、ご、ごめんなさい…とチェコ語で返すこともしばしば。笑
なので、この街で本当に快く買い物がしたかったら、やはりチェコ語が必要なのです。日本でも、商店街でオバチャンやオッチャン相手に欲しいものを伝え、探してもらい、買うとしたら、なかなか英語では期待できませんよね?それと全く一緒です。

従って、チェコ語が必須です。
しかし実は、大事なのは語学力ではないのです。チェコ語をペラペラ喋れるかどうかの前にもっともっと大事なことがあるのです。
それは「チェコ語を喋ろうと努力する姿勢を相手に見せたかどうか」です。

自分自身の経験でも、街角で見かける光景でも、本当によくあるのが、英語で「エクスキューズミー?」なんて言っちゃおうものならチェコ人にガン無視されるかその場で「Ne」(Noという意味)と一言で拒絶されるかのどちらか、というものです。ものすごく冷たい視線で見られて、何だこいつ?という顔をされて終わり。お店のオバチャンにそこまで冷たくされると、なんていうか、心がボッキリと折れます。軽くやさぐれます。やはり女の人には優しくされたい。(願望)
そこで「シンパティツキー作戦」です。Sympatickyとは、訳しづらいのですが、まぁなんというか冒頭に書いたように、親しみを感じ助けてあげたくなるような、感じのよい人だなぁ、という印象を与える人、という形容詞です。とにかくこれを徹底するのです。

まず、最初に話しかけるときから必ずチェコ語で話しかけます。
ちょっとすみません、私こういうのを探しているんですが、ありませんか?
と、無理にでもいいのでチェコ語で説明します。
徹頭徹尾、チェコ語を使います。
苦手意識など犬に食わせておいて、とにかく知っている単語を次々に繰り出すのです。
そうすると相手は無視できないので聞いてくれると同時に、私が一生懸命ジェスチャーやら何やら、絵解きまでしたこともありますが、やらで全身全霊で探しているもの欲しいものを伝えようとすると、だんだん引き込まれてくるわけです。何だろう、この子は何が欲しいと言ってるんだろう、あれかな、これかな、あれのことを言ってるんだろうか…と相手が想像力を働かせ始めたら、こっちの勝ちです。
ここまで来たら最後に一言、どうしても分からないその単語をぽつんと、英語で言っても案外通じたりするから驚きです。試してみてください。なんで最初から分かってくれんかったの!?と思わないでもないですが、要するに相手の苦手意識を取り除く努力をすればそうなる、ということなんです。何しろ相手は、潜在的には英語がなんとなく分かるのです。(多分日本人よりはずっと)ですからその相手の苦手意識を取り除くために、チェコ語をとにかく喋っていくことで、あちらの気分を「これだけチェコ語で喋ってくれてるし、なんか理解できる気がするぞ」という方向へ持っていくのです。
あとはその人が出してきたものを見て、いやこれじゃなくて、とか、これです!とか、もうちょっと小さいの、とかジェスチャーまじえて会話を続けていれば、用件は無事済みます。またはそこまで行けば最後に一言だけ、それを説明する単語を英語で言っても、なんとなく伝わるというわけです。あーはいはいそれなら分かるわ、これでしょ!なんつって、意気揚々と商品を探してきてくれます。そしてちょっと冗談なんて言ったりして、その意味が分からなくても笑って帰ってこれます。(笑)
買い物を笑顔で終わらせるのと、何を聞いても梨の礫で不愉快な気持ちで店を出るのとでは、その日の気分が違います。。気分よく暮らすには、チェコ語を話すことだ、と私の身体に染み付いたのも、無理もないと思います…。はい。

結局、チェコ語で全部説明なんて出来なくていいんです。チェコ語を話そう、理解しようとしているという姿勢を最大限究極まで見せるのが大事なのです。
…とはいえ、三年もいれば単語もだいぶ覚えましたし、質問のバリエーションも増えてますし、挨拶は流暢にできますし…。今は既に初心者とは言えないかもしれません。ただ、何も分からなかった来たばかりの時期からずっと共通してるのは「多少分からなくてもいいからチェコ語話した方が成功率が格段に上がる」ということ、だけです。私のチェコ語なんて、乳幼児にも劣るレベルだと思いますが(実際5歳児ぐらいが喋ってるともう難しくて何言ってるか分からない)、それでも例えばアパートの住人と顔を合わせればチェコ語で天気の話とかしますし、鍵をなくして待っている間どうしてもトイレ行きたくなって困った時に上の住人にトイレを借りに行って、ついでに世間話をして帰ってきたりとか、そこんちの7歳児と飼っているカメや猫の話もまぁなんとかできましたし(笑)、これ英語でも何て言っていいか分からんけどこれが欲しい!という時にお店の人とやり取りして新しい情報をゲットしたりとか、なんとかなりました。これが英語で話しかけた瞬間に、相手が英語に多少自信のある人でない限りほぼ100%不可能になりますからね…。英語で話しかけてガン無視されてしまった外国人を助けて、私の訳わからないチェコ語でなんとかその人の用事を達成できたとかいうこともよくありました。
私はほんとに、チェコ語喋れるわけでも分かるわけでもなく(勉強も続けてますし、努力はしていますがやはり難しいのです…)、ただ、努力する姿勢さえ見せれば、そのうちなんとかなる。んですよね。努力を続けないと話せないし理解もできませんが、努力を続けていれば必ずできてきます。語学の才能がある人なんてほんの一握り。大抵は、尽きない興味を原動力に努力を続けたか否か、それだけではないでしょうか。

でも、それってある程度どこの国でもそうだと思うのです。その国の言葉を喋ろうと努力すれば、現地の人の心を多少なりとも掴むことができます。でもそれをしない限り、外国人は「お客さん」です。仲間には入れてもらえません。外国人コミュニティーはふくれあがっていきますが、肝心のその国に来たという実感が持てる現地の友達や仲間はできていかないわけです。結局、なんでも同じなんだと思います。

例えば日本で、外国人が一人でぽつんと立っててなにかすごく困っていそうでこちらに来て、少しでもいいから分かる範囲で精一杯その国の言葉を喋ろうとしている人を見たら、なんか分かりそうだなという感じがしませんか?そしてもし彼の言うことが理解できたら、助けてあげようと思いませんか?それが不完全な日本語かどうかなんてどうでもいいし、理解できて助けてあげて、ありがとうと言われたら、嬉しくないですか?
例えば私のチェコ人の友人で日本に一年留学していた子は、洗濯用洗剤が欲しくて薬局に行ったものの、なんて言っていいのか単語がわからなくて、「洗濯パウダー、ください」と薬局の人に言ったそうです。(笑)でも通じた、と。そうですよね。そういうことだと思うんです。。洗濯パウダーと言われれば、誰だって洗濯用洗剤でパウダー状のものが欲しいのだ、と分かります。別にそれがおかしな日本語だなんて思いませんし、むしろ私は「洗濯パウダー」という機転の利かせ方にちょっと驚いたぐらいです。。
でも、もし彼がその努力をせずに、一言目から偉そうに、いかにも外国人です風に流暢に「エクスキューズミー?キャヌアイアスクユー?」なんて言われたら、あっ何この人英語じゃんもうダメだ、と思いません?その英語が早口で流暢だったらもう完全にお手上げです。もし彼が私の知っている単語を喋ったとしてもイヤだと思ってしまいそう。でも苦手意識ってそういうもんじゃないでしょうか。同じなんだと思うのですよ。基本的に。

だから、まず外国人はその国の言葉を知る努力をすべきだし、それを受けてもっと知りたいと思った現地の人は英語や、その外国人の国の言語を知ったりとかすれば、もっともっと広がる、と思うのです。
私はそういうのが好き。それをしないではもう生きていけないと、つくづく感じます。

人類、お互いに努力を怠らずに生きていきたいものです。

……なんか話がでかくなりました。(´▽`)